いつか来た道:朝日新聞

 『人口増加率 愛知県が1位』


 5月19日、朝日新聞の記事だ。


 『万博の盛況、ドラゴンズの優勝。近年元気な話題の多い愛知県が、人口増加率で初の全国1位に躍進した』というもので、その理由に『トヨタの好調さと県民の「非学歴志向」が背景にあるようだ』としている。


 まず、人口増が本当にいいことなのか。あるいは、人口減は悪なのか? もしくは、誰にとって「いい」ことで、誰にとって「悪い」ことなのか。そんな基本的な設問がきれいさっぱり省略された記事だ。
 それはともかく、都道府県別の人口増加率で、2001年に5位だった愛知県は、徐々に順位を上げ、06年に年間増加率0.74%で1位になった(前年までの1位は東京都)。40府県以上が減少していることを考えると、突出した数字だ。


 その原因として、自動車産業、すなわちトヨタが狂気的な利益を上げていることがあるのは、容易に想像がつくところ。じっさい、働く世代が多いことから、出生率も全国平均(1.26)を大きく上回る1.34なのだとか。
 しかし、あるシンクタンクによる、『学歴志向の低さが名古屋を強くする』という分析が、人口増のもうひとつの理由だとすれば、どうなのだろうか。


 『名古屋圏は高等教育(短大、高専以上)の修了率が約32%で全国平均以下。首都圏より9ポイントも低い』。なぜなら、『工場が多く、かつ元気だから「高卒でも、並の大卒より給料がいい仕事がある」』ため『無理をして大学に行かせる必要はないのだ』という。したがって、大学へ行くための高校へ行く必要性もなく、愛知県の中卒者の進学率は全国一低いのだそうだ。
 こうして、教育にかかる費用が少ないため子供が多く、ひいては人口増につながっているのだという。


 産業は巨大になればなるほど、ほんの少数のエリートと、理屈をこねない単純労働者を大量に必要とするのは、産業革命以降変わらない。そして、戦時の国家もまた同じ論理で運営されることは周知の事実だ。
 で、この記事を書いた各務滋記者は、最後をこうしめる。
 『愛知県が「全国標準」になれば、少子化も格差問題も一挙に解決する』と。


 さすがに、そのすぐ後に、『かもしれない』と予防線を張っている。
 が、朝日新聞の記者が、中卒者ばかりの社会に魅力を感じているのは確かなようだ。大卒者ばかりの会社にいて、そう考えるの、なんでだろう〜(古すぎ)。