情熱:東京新聞

『身障者の「性」向き合い30年』


 2月21日、東京新聞の「情熱」という連続企画の記事だ。


 あることに一生懸命な人物を紹介するコーナーだが、この日は、『社会の中でようやく語られるようになりつつある身体障害者の性の問題』という書き出しで、台東区にあるオリエンタル工業の代表取締役、土屋日出夫さん(63)が、『30年以上前からこの問題に向き合ってきた』と紹介されている。


 いわゆるダッチワイフを作る会社だが、当初は小売り業だったらしく、『塩化ビニール製の空気人形は壊れやすかった。ある身障者が何度も修理に訪れた。「もう少しなんとかならないかなあ」と漏らす彼の顔を見て、自ら開発することを決意した』そうで、身障者医療の現場にいる医者のアドバイスなどを取り入れて、空気でふくらませるのではない中身のつまった人形タイプを開発、発売した。
 ちなみに、空気型が2万円程度なのに対し、”本格派”は20万円ぐらいするらしい。
 が、土屋さんたちが目指すのは、『はけ口ではなく、「横に置くだけで癒される存在」』だといい、『事情があって廃棄を余儀なくされた購入者の多くは「送り返してくる」』そうで、『そうした人形は土屋さんの手で葬られ、毎年供養されている』とか。


 この会社の話は、今は亡き永沢光雄「風俗の人たち」ちくま文庫)にも出てくる。
 もちろん、そちらのルポの方がより詳しい(例えば、体重120キロの人が乗っかっても大丈夫とか、人形の表面はシリコンで手触りがいいだとか)のだが、なにより、一般紙の朝刊の、しかも最終面(他紙ならテレビ欄があるところ。東京は日経と同じく最終面がふつうの記事になっている)に「ちょっといい話」風に紹介されているのがすごい。
 一日の始まりに読むコラムとしては、異形かもしれないが、偉業でもある。


 ところで、オリエンタル工業は、買い主に人形を送る際、こんなメッセージを付しているという。
 『この娘達一人一人が私どもの手元で成長し、なにかのご縁で皆様のところに嫁いで行く日、それは花嫁の親として私たちの新しい責任の生まれる日でもあります』(「風俗の人たち」より)と。