おじぎ草:東京新聞

『法王の心に届いた詩 ハンセン病元患者の桜井さん謁見』


 2月15日、東京新聞の記事だ(共同通信配信)。


 『盲目の詩人でハンセン病元患者の桜井哲夫さん(82)=本名・長峰利造、青森県出身=が14日、バチカンでローマ法王ベネディクト16世の一般謁見に参加、法王から祝福を受けた』という。
 桜井さんのことは、友人に薦められて読んだ「しがまっこ溶けた」(金正美、NHK出版)という本で知ったのだけれど、目が見えないだけでなく、指がないためペンを持てず、点字を打つこともできない。
 だから詩作は、頭の中で完結し、桜井さんが暮らす栗生楽泉園(群馬県にあるハンセン病療養所)の職員に、作品を口述筆記してもらうのだそうだ。


 その桜井さんが、自身の詩集「津軽の声が聞こえる」の英訳本を法王に贈ったことから、今回の謁見が実現した。
 そして、『桜井さんが、「世界のハンセン病患者を祝福してくださるようお願いします」と伝えると、法王は2度、頭に触れ祝福を与え』たという。


 『俺ね、この年齢になっても、いまだに”らいを生きる”ってどういうことなのか、よくわからない。そのことを、いろんな文字や言葉で表現するのもむずかしいの。ただ何とかそれをひと言、言葉にできるとしたら、”よかった”っていうことになるの』(「しがまっこ溶けた」より)と言う桜井さんには、「おじぎ草」というこんな詩がある。


 夏草を震わせて
 白樺に鳴く蝉に
 おじぎ草がおじぎする


 包帯を巻いた指で
 おじぎ草に触れると
 おじぎ草がおじぎする


 指を奪った「らい」に
 指のない手を合わせ
 おじぎ草のように
 おじぎした
 (第4詩集『タイの蝶々』より)