正論:毎日新聞

『教室に「ニセ科学」 疑問感じず安易に拡大』


 2月7日の毎日新聞だ。


 『関東地方の理科教師は昨年秋、中1の教え子から提出された夏休みの自由研究を前に考え込んだ』という。
 それは、『カイワレ大根の成長が、人間の言葉の影響を受けるかどうかを調べた観察記録』で、「ありがとう」と言葉をかけたカイワレと、「ばか」と声をかけたカイワレの成長具合を比較。『生徒は「ばか」と言い続けたら、育ち方が不均一になった。言葉が成長に影響すると分かって驚いた」と結論づけた』という。


 教師には、『どちらのカイワレも同じように不均一』にしか見えない、この自由研究には、伏線となっている「理論」がある。
 1999年に出版され、教育指導を研究するサークル(TOSS)が取り上げたことで学校現場でも知られるようになった写真集「水からの伝言」(サンマーク出版)で、これが「ニセ科学」を広めたのだとか。
 『「ありがとう」「平和」という言葉やクラシック音楽を「聞かせた」「見せた」水は美しい氷の結晶を作るが、「ばかやろう」やハードロックでは、結晶が乱れたり結晶にならない、と主張。人の生き方や言葉のよしあしを水が教えてくれる』との理論を「発見」したのは、江本勝という人物。
 「水からの伝言」をグーグルで検索すると、賛否両論、30万件以上がヒットするから、かなり知られた「理論」なのだろう。


 しかし、この「よい言葉」理論を批判するのは、学習院大学の田崎教授で、『じゃあ”Shine”と書いた紙を張ったら、どうなるか』『「Shine(輝く)」とも「死ね」とも読める。ちょっと考えてみれば、おかしいと分かる』という。
 確かに、H2Oが日本語を理解して、スワヒリ語は理解しない、というのはヘンな話しだ。
 同じ言葉でも、熊本の水は「クマモト」を”愛する郷土”と理解し、ケニアのは”マンコ”と理解するだなんて…。


 でも。
 牛にモーツァルトを聞かせると牛乳や肉がおいしくなるなどと言われている。
 牛には鼓膜があり、ストレスを感じたり感じなかったりもするから、水とは違うと言える。
 では、その中間のような存在のカイワレはどうなんだろうか。


 田崎教授は、『どんな言葉がよく、どんな言葉が悪いかは人間が一生懸命考えるべき心の問題であり、科学を装って水に教えてもらう話ではない』という。まさに正論だ。
 が、正論すぎるからこそ、付け入るスキがあるんじゃないだろうか。
 だから、アメリカの一部では、天地創造を教え、進化論を否定する学校が現れるんだろう。