金太郎の犬:東京新聞

『心優しき「頭突き王」 「徴用された愛犬の供養」託す』

 12月28日、東京新聞夕刊の記事だ。

 『10月に77歳で死去した韓国人プロレスラー大木金太郎こと金一(キム・イル)さんの自伝が今月、日韓両国で相次いで出版された』というもので、15年にわたる闘病生活を支えたのが、金嬉老の身元引受人でもある韓日仏教福祉協会長の朴三中さんだったそうだ。
 それはともかく、朴さんが、92年に福岡の病院に大木金太郎を見舞った際、『最後の望みがあれば話して』と尋ねたところ、意外にも、『「死ぬ前に故郷に愛犬の銅像を建てたい」と答えた』という。
 その「愛犬」とは。

 『(大木金太郎こと)金さんが子どものころ、旧日本軍が防寒服を作るため韓国の犬を徴用していた。金さんは愛犬と泣く泣く別れたが、数日後に愛犬は家に戻った。だが、日本軍はこれを見過ごさず、金さんは再び引っ張られていく愛犬の悲しそうな瞳に涙が止まらなかった』というのだ。
 推定年齢10歳の金少年の思い出から、この犬を供養したいとの願いで、94年に愛犬の銅像が故郷に建ったという。

 「最後の望み」から10年以上も生きたのだから、密入国した日本でプロレス界の「しごき」にも耐え、名を馳せた大木金太郎だけのことはある。
 さらには、このような「心優しき」話を生前に発表しなかったところも、生涯一プロレスラーだったことの証かもしれない。

 にしても。
 犬、それも子どもの飼い犬まで徴用してたのか、我が日本軍は。
 それで戦争に勝とうという了見が浅ましい。

※本のタイトルは「自伝大木金太郎 伝説のパッチギ王」講談社