現代の偉人たち:東京新聞

『一軒一軒歩いて確認 「匿名社会」で苦労増す』


 4月19日、東京新聞の夕刊で、「文化ぶんぶん人類学」という、いろんな職業の内幕をレポートする連載だ。


 で、この日は、住宅地図作りの現場ルポで、その代名詞とも言える「ゼンリン」の中村修さんに話を聞いている。


 仕事で、すべての家屋に家主の名が入った住宅地図を使うことがあり、どうやって作っているのかと不思議に思っていたので、『年間延べ28万人もの調査員が、全国くまなく歩き回って』作っている、という説明に、目からウロコというか、当たり前の単純作業を繰り返してるのかと納得。
 30人の調査員のキャップを務める中村さんによると、『基本作業は一軒一軒の表札を確認し、調査原稿と違えば、新しい情報を書き込むこと。表札がカタカナやローマ字表記のときは、呼び鈴を押して直接本人から聴き取る』らしく、『番犬にほえられるのは日常茶飯事』で、『夏は脱水症状になりかけ、冬はボールペンのインクも凍る寒さに耐える』という。


 たいへんな仕事だが、『何より中村さんたちの仕事を難しくしているのは、社会の「匿名化」の波だ』という。
 『表札そのものを出さない家は増えるばかり。マンションはオートロックで入れない。どんなに仕事の意義を説明しても納得してもらえず、警察を呼ばれてしまう』とかで、『年々やりにくくなってます』という。


 そういえば同じ日の毎日新聞には、『日本紳士録、休刊』というベタ記事があった。
 日本でもっとも伝統のある社交クラブでもある交詢社が80年間にわたって発行してきた「日本紳士録」が休刊するそうで、『休刊理由について、2005年の個人情報保護法の施行後、住所や生年月日などの削除依頼が相次ぎ、「紳士録の意味がなくなった」(同社)ことなどを挙げている』という。


 東京新聞は、中村さんら調査員の仕事を、『「現代の伊能忠敬」たち』と表現しているが、その偉業は後世まで語り継がれるのであろうか、それとも個人情報保護の名のもとに撃沈し、「紳士録」と同じ運命を歩むのだろうか。